よりよい白血病治療のために
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6.造血幹細胞移植療法(骨髄移植療法)

 造血幹細胞移植療法(hematopoietic stem cell transplantation, HSCT)とは、
致死量の抗がん剤を投与したり全身放射線照射を行うことにより白血病細胞を殺した後に、
強力治療によって回復しなくなる骨髄中の造血細胞を、他人の骨髄を移植することにより、
血球を回復させる治療法です。
必要なのは骨髄中にあって血液細胞をつくる基になる造血幹細胞です。
最近、この造血幹細胞が末梢血中や臍帯血の中にもあり、これらを用いる末梢血幹細胞移植や
臍帯血幹細胞移植も骨髄移植と同じ程度に有効であることが判りましたので、今では造血幹胞
移植療法と一括されるようになりました。

  「2.白血病の原因」のところでも触れましたが、東日本大震災による福島第一原子力発電所
事故により、1年間に20ミリシーベルトを越える被曝量を越える地域には避難指示が出されました。
放射線を1,000ミリシーベルト以上被曝すると嘔気・嘔吐や脱毛などの症状が現れ、
4,000ミリシーベルト以上の被曝では、治療をしなければ半数以上の人が死亡し、
7,000ミリシーベルトを越えると、治療をしなければ全員が死亡します。
造血幹細胞移植のときに使用する全身放射線照射量は、通常12シーベルトすなわち
12,000ミリシーベルトであり、この量を数回に分けて分割照射します。
白血病細胞を死滅させるのには、これだけの量の放射線が必要なのです。
放射線照射後なにもしなければ全員が死亡しますので、他人の造血幹細胞を移植して血液細胞を
回復させるのです。

  造血幹細胞移植療法により薬物療法ではほとんど治癒の期待できない難反応例や再発症例に
おいても治癒が期待できます。
大量のクロフォスファミドやブサルファンなどの抗がん剤薬や全身放射線照射を始めとする
移植前の前治療が、現在ある白血病治療法の中で最も強力であるという事実に加え、
移植片対白血病 (graft-versus-leukemia, GVL) 効果、すなわち移植したドナーのリンパ球が
白血病細胞を免疫学的に攻撃するという現象があるためです。

  単純に考えると大変結構な治療法なのですが、白血球抗原(HLA)適合ドナー
(家族ないしは非血縁者) がいることが第一条件です。
また、移植前の治療が強力であることより、これに耐えることができる全身状態が良好であり、
年齢が50才以下の患者さんのみに施行できるという制限があります。
HLA とはヒトの組織適合抗原のことで、両親から一つずつもらう組織型は4組の組み合わせが
出来ますが、兄弟・姉妹間で適合する確率は4分の1です。
子供の少ない日本人ではなかなか適合ドナーを見つけることができません。
そのため、骨髄バンクや臍帯血バンクが作られて、非血縁者ドナーによる移植も行われます。
また、たいへん強力な治療法にもかかわらず、白血病再発を完全に防ぐこともできません。
 HLA は最も主要な組織適合抗原型ですが、赤血球にAB型以外の血液型が沢山あるように、
組織適合抗原型も幾つかあり、それらの全てが合う訳ではありませんので、組織適合抗原型の
違いによる免疫病が出てきます。
すなわち、ドナーのリンパ球が患者組織を免疫学的に攻撃する移植片対宿主病
(graft-versus-host disease, GVHD) です。
非血縁者ドナー間では、その差がより大きいため、GVHDがより強く出ます。

  重症型のGVHDの致死的となりますので、この医原病は造血幹細胞移植療法において、
解決しなければならない最も重大な問題です。この免疫反応をシクロスポリン
(サンディミュンR、ネオラールR)やタクロリムス(プログラフR、グラセプターR)などの
免疫抑制薬で抑えることはできますが、これらの薬は正常の免疫反応も抑制しますので、
今度は免疫不全症が現われて、間質性肺炎などの合併症が多くなったり、
移植片対白血病効果も抑えられるために再発が起こりやすくなりますので、
なかなか対応の難しい合併症です。

  特に、非血縁者ドナー移植では、GVHDでの発生頻度も重症度も高くなり、GVHDで亡くなる
患者さんもかなりの割合で出現します。
最近では、HLAを単に血清学的に検査するだけではなく、遺伝子で調べることができるようになりました。
遺伝子タイプも完全一致している場合のGVHDの発生頻度は家族ドナーと同じ程度になりますので、
より安全に施行できます。

 臍帯血幹細胞移植の場合は、例え非血縁者ドナーでも、このGVHDが軽症であると言われて
いますが、臍帯血中の造血幹細胞数が少ないため、原則的に子供でしか行えませんが、
複数の臍帯血を合わせて移植することも可能であり、成人ではこのような形で実施されています。
ただし、遺伝子的に異なる複数の血液細胞が単一個体に長期間共存することに関する長期成績は
まだありません。
  ドナー選択の順位は、HLA一致兄弟姉妹>HLA一致親子>HLA遺伝子型一致非血縁ドナー>
HLA血清型一致/遺伝子不一致非血縁ドナー>臍帯血>HLA不一致兄弟姉妹です。
なお、幹細胞の採取場所が異なる骨髄移植と末梢血幹細胞移植の治療成績には差はありませんが、
後者の方が移植後100日以上も続いている慢性GVHDが多いといわれています。
なお、非血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植も最近保険適応になりました。臍帯血幹細胞移植は、
含まれる幹細胞が少ないことより、血液細胞が増殖してこないことがあります。
  非血縁ドナー移植の場合、HLA型のA、B、C 、DRB1、DQB1、DPB1 のうち、
HLA-A、B、Cや DPB1の遺伝子型が違うと重症GVHDが発生しやすことが分かっていますので、
できるかぎりこれらが完全一致しているドナーが選ばれます。
また、HLA-CやDPB1の遺伝子型が違うと白血病再発がおきやすいことも分かっています。
 通常の移植は前治療で致死量の抗がん薬や全身放射線照射を行って白血病細胞を死滅させますが、
どうしても副作用が多くなり、50歳以上の中高年の患者さんには施行しづらいという難点がありました。
そのため、前治療を弱くした移植、すなわち、ミニ移植が中高年の白血病に対し行われます。
前治療では、通常の移植には使われないフルダラビンに加え、ブスルファンが使用されますが、使用量が
少ないために副作用が少なく安全に施行できる反面、通常の移植と比べて再発が多くなるのが難点です。

  新しい分子標的療法を含め、薬物療法の成績が向上してきたため、初回の寛解期で
造血幹細胞移植療法、特に、非血縁者ドナー移植を行うか否かは議論のあるところです。
これまで造血幹細胞移植が第一選択治療法であった慢性骨髄性白血病においては、
イマチニブの登場により、移植はイマチニブ無効例にしか行なわれなくなりました。
さらに、ニロチニブやダサチニブも登場しましたので、移植はこれらが無効になった移行期や
急性転化期の治療法になりました。

  移植の治療成績をみるとき注意しなければならないのは、移植のできた患者さんの治療成績
だけをみると良く見えるのですが、移植する前に再発するとか、たとえドナーがいても移植療法に
耐えられない全身状態の良くない症例も考慮して全体で見ると、化学療法の成績とそれほど
違わないのではないかとの疑問があるのです。
逆にみれば、化学療法の成績も、早期に再発した患者さんや全身状態の悪い患者さんを
除外して解析すれば、良く見えることになるのです。

  そのため、移植を施行した・しなかったではなく、HLA適合ドナーがいれば必ず移植をするという
約束のもとに比較研究を行なうという方法、すなわち、HLA適合ドナーのあるなしでの
前方向比較研究が行なわれたてきました。
このようなやり方で比較するのが科学的な判断法なのですが、日本人はこのような論理的合理的判断が
苦手であるためか、移植専門医の中でこの課題に積極的に取り組む研究者が少なく、
JALSGが成人急性骨髄性白血病を対象として行った前方向比較研究がたった一つあるだけです。

  その結果も含め、欧米の成績を解析した結果、薬だけでも造血幹細胞移植に匹敵する治療成績が
得られる予後良好因子を持った低リスクの白血病は、薬だけで治療し、それ以外の予後不良因子を
持つ中等度リスク白血病や高リスク白血病では、HLA一致ドナーがいれば、初回の寛解期から
造血幹細胞移植を行なうのがよいであろうと考えられています。
 GVHDが強く出る非血縁者ドナー移植は、副作用が強くでる反面、GVHDが白血病細胞も殺す
という利点もあります。
後者の利点を考えますと、非血縁ドナー移植は薬物療法が効かないときや再発後において、
より有用性が増します。
最近、初期の副作用を抑える治療法が進歩してきましたので、特に日本人間での非血縁者ドナー移植
の成績は向上しています。
しかし、年齢が35歳以上になると、GVHDも含めた副作用が強くでますので、慎重に判断する必要が
あります。
また、移植後100日以降に見られる慢性GVHDは、自己免疫病と同じ様な症状を示し、重症例は
コントロールも容易ではなく、白血病は再発しないのに慢性GVHDでお亡くなりになる患者さんもいます。

  家族間移植でも、長期的に見ると、移植関連合併症により約30%が死亡し、また白血病再発も
約20%にみられます。
ただし、移植直後の移植関連死は、最近の治療の進歩により大幅に減っており、
移植そのものはかなり安全に行われるようになりました。
それでも、致死量の抗がん薬や全身放射線照射の長期的副作用も懸念されますので、
同等の治癒率が期待される白血病病型では、より副作用の少ない薬物療法を選択すべきでしょう。
将来的には、白血病の種類別に選択される分子標的療法が主流になると予想しています。

  完全寛解になった時に、自分の骨髄や末梢血中の幹細胞を保存しておき、強力治療後にこれを
移植する自家造血幹細胞移植療法に関しても、明らかに良いというエビデンス(証拠)はほとんど
ありませんので、最近では行なわれなくなりました。

  急性前骨髄球性白血病、(8;21)転座白血病、(16)逆位白血病や小児急性リンパ性白血病では、
薬だけで多くの患者さんを治すことができますので、造血幹細胞移植は再発例にしか行ないません。
それ以外の白血病において、年齢的にも若年者とはいえない患者さんで、HLA一致ドナーが
見つからない場合には、最初の完全寛解(第一寛解期)から、臍帯血移植やHLA不一致ドナーからの
移植を行うのがよいかに関するエビデンスはありませんので、薬物療法で治る確率とのバランスを
考えながら判断すべきでしょう。
ただし、再発した場合には、移植しか治療法がないと考えてください。

  成人の急性リンパ性白血病でも、最近では、25歳~30歳ころまでは、小児急性リンパ性白血病と
同じ強力治療を行うことにより、治療成績が向上してきました。
また、Ph陽性急性リンパ性白血病では、イマチニブとダサチニブが特効薬として効くことが分かりました。
したがって、このような症例においてHLA完全一致ドナーがいない場合には、いきなり臍帯血や
HLA不一致ドナーなど無理な移植をするのではなく、再発したら施行するという方向がよろしいでしょう。


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