入山 規良 先生(日本大学医学部 血液膠原病内科)
ASH2025ポスター報告 日本大学医学部 血液膠原病内科 入山 規良
2025年の米国血液学会(ASH)は、フロリダ州オーランドで開催されました。オーランドは南国の雰囲気が漂う観光地で、幹線道路沿いには多くのホテルが立ち並んでいます。学会はOrange County Convention Centerと、そこに直結するHyatt Hotelを会場として行われました。
コロナ禍以降、初めての現地参加となりましたが、以前のような混雑は見られず、落ち着いて発表を見学できたのは嬉しい点でした。現地参加者が減少している背景には、バーチャル参加の一般化や旅費の高騰が影響しているのかもしれません。参加者の服装もカジュアルな傾向が強く、ネクタイを着用している方は少数派でした。
ASHに参加するたびに、演題数の多さには圧倒されます。今回も興味深い発表が多数ありましたが、興味を満たすには時間が足りず、惜しい思いをしました。それでも、私の主たる目的は、JALSGで実施したCML RE-STOP219試験の結果報告であり、同時に最新のエビデンスを吸収すべく、さまざまなセッションを聴講いたしました。
中でも特に印象に残ったのは、Plenary Sessionで発表された、未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対する3つのレジメンの無作為化比較試験です。イブルチニブによる持続療法と、固定期間で実施されたベネトクラクス+オビヌツズマブ併用療法、ベネトクラクス+イブルチニブ併用療法が比較され、いずれの固定期間治療も持続療法に対して非劣性を示しました。今後の長期フォローアップの結果にも注目が集まります。Plenary Sessionの発表は、スタンディングオベーションと盛大な拍手に包まれ、世界中からの敬意と羨望が感じられる、非常に感動的な瞬間でした。
慢性骨髄性白血病(CML)の分野では、Oral Sessionの多くが遺伝子解析を主軸とした内容でした。複数の研究において、ASXL1変異が治療反応性や予後に関わる重要な因子として注目されておりました。また、major BCR::ABL1とminor BCR::ABL1の間における付加的な遺伝子プロファイルの違いに関する発表もあり、予後の違いとも関連しているようであり、非常に興味深く拝聴しました。さらに、末梢血を用いたDNAレベルでの微小残存病変解析に関する報告では、無治療寛解(TFR)の成功との関連が示唆されており、顆粒球とTリンパ球を分けて解析するアプローチがユニークで印象的でした。
ポスター発表では、臨床試験の長期フォローアップデータや、TFRに関わる因子(タンパク質、遺伝子、臨床的特徴)のプロファイリング、小児におけるELTSスコアの意義、心血管障害や腎機能異常などの有害事象、妊娠に関するレトロスペクティブ研究など、既存報告の再検証を目的とした演題が多く見られました。研究テーマとしては一巡した印象もありましたが、採択された演題はいずれも比較的症例数が多く、クリニカルクエスチョンに対して明確な答えを導くには、組織的な症例集積の重要性を改めて実感いたしました。
私が発表させていただいたCML RE-STOP219試験は、一度TFR獲得に失敗した患者に対し、ポナチニブによる維持療法を経て再度TFRに挑戦するという臨床試験です。発表には多くの方が関心を寄せてくださり、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の中止が世界的に日常臨床へ広く普及していることを改めて実感いたしました。
特に「2回目のTKI中止」に関しては、患者背景や再治療戦略に関する質問が多く寄せられました。本試験のような治療戦略を日常診療に導入するかどうかについては、「やはり不安がある」と感じている先生方も多く、ベネフィットとリスクのバランスの重要性については、多くの参加者から共感を得ることができました。また、同様の試験デザインによる臨床試験が、少なくとも2件実施されていることが確認できました。そのうちの1件については、まもなく主要評価項目の到達時期を迎え、来年中には結果を公表する予定であると、発表者が明言されていました。こうした状況からも、エビデンスの創出はまさに時間との戦いであり、迅速な試験の遂行と成果の発信が、今後ますます重要になることを改めて実感いたしました。
最後に、このたびの発表にあたり、本臨床研究の計画・推進にご尽力いただいた委員の先生方をはじめ、事務局の天野様、砂畑様、データセンターの瀬戸様、生越様、そして貴重な症例をご登録くださった全国の先生方に、心より深く御礼申し上げます。
